太陽にほえろ! 1972.7.21〜1986.11.14

出演:石原裕次郎 露口茂 下川辰平 竜雷太 小野寺昭他


<出演回・サブタイトル(放映日)・キャラクター名>                

第156話・「刑事狂乱」(1975.7.11放映)
尾崎洋一(殺人事件の被害者:<大まかなあらすじ>参照)


<今見るとしたら>                                

確かファミリー劇場でも放映されたと記憶しているが、ビデオでもリリースされている。
VAPビデオ「太陽にほえろ!4800シリーズ テキサス&ボン・鮫やん活躍編」に収録。
とはいえ出たのは確か1996年頃なので、大きめのビデオレンタル店を探す方が早道かと思われる。


<大まかなあらすじ>                               

アーチェリークラブで七曲署の刑事・テキサスこと三上(勝野洋)と出会ったりつこ(五十嵐じゅん)。
 以前りつこには、三上に生き写しでしかも同じ刑事だった恋人・青木(勝野洋:二役)がいた。 今は亡き青木が生き返ってきたかのような三上に、りつこは初対面から惹かれていく。
しかし彼女の心変わりを知った現在の恋人・尾崎はこれを快く思わず、自分との交際を三上にばらすとりつこにほのめかす。 思いあまった彼女は、尾崎をアーチェリークラブ内で殺害してしまった。
りつこから殺人を打ち明けられた青木のかつての先輩・鮫やんこと鮫島(藤岡啄也)は、彼女の身柄を隠した上で、 嫌疑を避ける為に二人が交際していた証拠を隠滅しようと尾崎のマンションに忍び込んだ。 証拠となりそうな品は掴んだものの、しかし持ち帰ろうとしたところで七曲署の刑事達に見つかってしまう。
りつこの為に黙秘を貫き、状況によっては殺人の罪をかぶろうとさえする鮫島。
藤堂はそんな鮫島に心理的な揺さぶりをかけ、わざと三上を人質に取らせてりつこの居場所へ連れて行かせる作戦をたてる。 それでもなおりつこを庇おうとする鮫島、鮫島にこれ以上刑事の領分を踏み外させまいとする七曲署の刑事達。そして―――。


<偏った感想その他>                               

「それにしても顔と職業が同じ彼に会うなりいきなり身辺整理始めるって、彼女ちょっと短絡的なんじゃ」と見る度に苦笑いしている話である。 全編通してどうも彼女も鮫やんも思い込みが激しすぎて、ついにテキサスに「僕は青木さんじゃない」と言われてしまう位だ。
 ちなみにこの話の前には、ちゃんと青木刑事の登場する第89話「地獄の再会」が存在する。 二役なので生き写しなのも当たり前だが、この第89話は勝野洋氏のテスト出演回だった由。 実に一年余を経て後日談として展開される辺りは、流石長寿番組と言えよう。

話の主題はあくまで「かつて青木を自分の身替わりのような形で死なせた責任を背負い続けている鮫やん」にあるので、 殺人事件そのものは冒頭の10分で起きてしまっている。つまり山口氏の出番もそこだけ。
 しかし白のセーターが爽やかに似合って「成程女たらしがつとまるだけの男前」なのに勿体ない。
 …それはともかく。
 実際この話、見れば見る程「何も殺さなくたって…」という気持ちになるのだ。
しつこいようだが、かつての恋人にそっくりで職業が同じ男が現れたというだけで(つきあってまだ一年も経っていなかろうに)あっさり一目惚れするというのが、まず随分な話ではないか。 つまりはもうそれまで尾崎に貢がされて疲れ果てていたのか、という想像はできなくもないが、作中ではそこまでの描写はない。
「女の生き血を吸うダニ」と言う鮫やんの言葉を信用するにしても、彼女が贈った品物といえばネクタイ一本だけのようだし。 あえて贔屓目を除くとしても「殺される程の事をしてたのか?」という疑問は拭えない。
 しかもこの件で尾崎のした事と言えば、テキサスに「ちょっと会いたいんだ。あんたが今つきあってる女の事で、折り入って話が」とお茶目な電話をかけ、彼女に「今夜はゆっくり話し合おうじゃないか、三人でな」とちょこっと嫌がらせをした位である。
 これが「ずっとテキサスとつきあっていたのだが音信不通になっている間にうっかり他の男によろめいてしまった」なら彼女が恐れるのも解らないでもないが、 それともこれを「不義」と錯覚する程に彼女が青木とテキサスを同一視してしまっていた、という事なのだろうか。 しかしくどいようだが青木とテキサスは赤の他人なのである。 彼女の「黙って別れて」というのもどうも相当ムシの良い言い種に思えるし、尾崎の立場を考えれば、嫌みの一言くらい言わせてやれよ、という気もする。
 そして「そりゃあ三上の出方次第だな」という尾崎にしてみれば、適当に絡んで手切れ金でもせしめられれば(それも嫌だが)わざわざいつまでも彼女にかかわり合っている、という事もなかったのではないか。 女性には不自由していない風でもあったのだし。
 とはいえそこまでりつこに思いつめられた当のテキサスは「一回映画を見に行って、それから何度か電話かかってきたけど忙しかったもので」とあまりその気もなさげだったので、もしも別の男の存在を知ったとしたらそれ以上は進展しなかった可能性も確かに高い。
 そんなあれこれが一気に殺意へ凝縮されたか。
 しかし百万歩譲っても、殺していい理由にはなりようもない。 どう見ても「新しい恋に邪魔なので片付けたんだな」という展開である。
 なんて可哀想なんだ尾崎洋一。
 更に気の毒な事に、中盤以降すっかり七曲署の皆さんの懸念は鮫やんに集中しているので、事件そのものについてはいつの間にか「それはおいといて」な雰囲気になっていたりする。 しかもボス自ら留置所に鮫やんを訪れて曰く「死んだ尾崎ってのは名うてのプレイボーイだ。りつこさんの気持ちを思うと、俺も不憫だよ」って、そりゃないぜセニョリータ。…もとい、そりゃないぜボス。
 かりにも殺人事件で、こんなにも被害者が蔑ろにされていいものだろうか。

 そしてこの話の中では終始「運命の悪戯に翻弄されるいたいけなヒロイン」というポジションの筈のりつこなのだが、殺害を決意した場面での彼女の目は冗談抜きで怖いのだ。 ためらいもせずに無言で矢をつがえ、立ちすくんでいる相手を表情ひとつ変えずに射殺す彼女を見る度に「七曲署の皆さんも鮫やんも何か騙されているのでは…」という気持ちに駆られてならない。
しかも刑事達の目の前で、一度は自殺を図る彼女の台詞は「青木さんのところへ行きます」だけなのだ。
どうやら殺人そのものについては何ひとつ後悔も反省もしていないようなので、裁判の際にはその点も加味していただきたい。ああ。つい熱くなってしまった。