After Dark(仮面ライダーV3)

「After Dark」(2008.5.3)初出

         ※ご注意!※この話は「『孵る記憶』第14節とエピローグの間に
          あってもなくても良いようなエピソード」として当時出したコピー本に収録したものです。
          続けて読まれる分には大丈夫かと思われますが、状況説明も不十分・不親切な話となっていますので
          「どんな話だったっけ?」と思われましたら恐縮ですが是非御再読下さい。



 冬の陽光をその輪郭に鈍く照り返して、大きな複眼をもつ仮面が眼前に迫っていた。
 間髪入れず右、左と繰り出されてくる拳を、際どいところで躱しながら何とか反撃の機会を伺
う。左拳を受け流した反動を利用してうった右足の蹴りも、しかし同じ無駄の無さでしなやかに
いなされていた。攻撃の呼吸は、互いに自分のもののように掴めている。相手の攻撃を一方的に
受ける事もない代わりに、変身しても相手を倒すのは難しい。
(このままでは)
いつまで経っても勝負はつかない。
 目の前の表情を映さない複眼にも、自分が見ているのと同じ仮面の輪郭が映り込んでいる。
鏡を覗いているような錯覚が、またよぎった。
(……いや)
同じ形、同じ記憶を持ちながら、自分と相手にはただひとつ決定的に違うところがある。
 何故、と思いもした。
 だがそれに答えなどない事も解っていた。
たとえ答えが解ったとしても、何の意味がある訳でもない。ただ解っているのは、この決着は
自分の手でつけなくてはならないという事だけだ。
 そう思い返しながら、再び拳に力を込める。
(この場でケリをつけてやる)
しかし繰り出した拳は風を切っている。紙一重のところで斜に引かれた肩越しに、崖の向こう
の風景が一瞬眩しく覗いた。
 青い空と海が、遠い水平線を直線に光らせてせめぎあっている。線上に漲るおぼろな光は、
海のものなのか空のものなのか。
 ふとそんな思いが脳裡をよぎった刹那、しかし体勢を整える反動を利用してスピードをのせ
た右拳の軌跡が視界の隅を掠めている。とっさに上げた腕で受け止めながら、ちらりとまた海
を見やった。

 乾いた寒風が、遠く耳元で鳴っている。
 身体の内を吹き抜けるようなその流れの中を、気づくとぼんやりと歩いていた。歩を進める
毎に、左肩から手首へかけて鋭い痛みが突き抜ける。ともすれば足元すらおぼつかなくなりな
がらも、強ばる指先で抱え直したのはジャケットの懐に入れた重い塊だった。何だったのかも
思い出せなかったが、その卵のような重みを落とすまいと、もどかしく指に力を込める。
 早く行かなくては、と気が急いた。何という理由もなくただ不安めいた感情が湧き上がる。
馬鹿馬鹿しい、とぎこちなく苦笑しながらも、傾斜した崖の先を仰いだ。
 灰色の空と海に向かって立ちつくしている、友人の後ろ姿が見えた。
「結城」
かけた声が、自分でも変に掠れて聞こえた。
 我に返ったようにすいと背筋を伸ばし、ゆっくり振り返った友人の顔にも、珍しく疲れの色
が濃く見えた。そう言えばここ数日、ほとんど眠らずに謎の薬物の分析に没頭していたのだと
思い出す。だが自分を見つめるその瞳は、いつもと変わらない光をたたえていた。
 にわかに膝から力が抜けかかるのを、慌てて持ちこたえた。まだここで倒れる訳には行かな
い、と自分に言い聞かせ、なおも友人を仰ぎ見る。
 思えばここまで来るのに、随分長い時間がかかった気がした。
 初めて出会った時、彼にとって自分は敵だった。長い間信じて生きてきた世界を壊そうとす
る敵だ。
 戦闘力では相手にならないと解っていても自分の前に立ちはだかり、たとえ力及ばなくても
何とか食い下がろうとしてきた、ひたむきさは今も昔も変わらない。それこそ傍から見れば愚
かしい程のまっすぐさに、思わずこちらまで感情をあらわにしてしまう程に。
 だから彼より先に、その進むべき道を知っていたのは自分なのだ。
 お前が居るべきなのは、そこではない―――と。
 かつて信じていたものの真の姿を悟るまでに、彼がどれだけ苦しみ悩んだかも知っている。
だから自分にしては辛抱強く見守ってきたのだ。いつかは彼も現実に向かい合い、自分と共に
歩んでくれる筈だと信じて。
 過去に固執するよりも、掴んだ真実の為にその力を使えばいい。どうしてこんな簡単な事が
解らないのか、と苛立たしく思った事もあった。
 だがそれも過去の事だ。
 友人はここに居る。自分を見つめているその黒い瞳には、深い信頼と友情の色がある。
 その懐かしいまなざしに、自分でも驚く程安堵していた。
 思わず息をついた、次の瞬間―――ふっと恐ろしい考えが胸をよぎった。

 自分は。
 友人のまなざしに、ほっとしているこの自分は。

 どちらの「自分」なのか?


 見開いた目に射すおぼろな光が、スタンドの灯だと認識するのに随分かかったようだった。
 その光も届かない四隅には薄闇の漂う天井をぼんやりと仰いでいる内に、やがて自分の息
遣いがこもる風のように耳奥に掠れて聞こえ始める。
(……俺は)
僅か数日でも目に馴染んでいるその漆喰塗りの微妙な陰影に目を凝らしたが、しかし何故自
分がここに居るのかはなかなか思い出せなかった。
 あの崖の上で友人の無事を確かめて安堵したのは覚えていたが、その前後の事がどうにも
思い出せない。どうやら夜らしいが、果たしてどれ位の時間が経っているのかも。
 何があった、とものうくうとうとした寝返りは、低い声に制されている。
「―――風見」
目だけを動かして仰ぐと、すぐ横に結城が立っていた。手にしていた包帯と鋏をテーブルに
置いて、気遣うように覗き込む。
「気分はどうだ」
「……まあ、悪くはないな」
身体は重くけだるかったが、頭も痛まないし吐き気もしない。しかし身体を起こそうとした
途端、左腕に鈍い痛みが走って思わず力が抜けた。
「ああ、じっとしていろ」
軽く制した手で毛布の端を直すと、結城はようやく目元だけでぎこちなく笑ってみせた。
「左腕が折れているんだ。固定してある」
そうか、と思った。だがどこでそんな怪我をしたのかも、まだ思い出せなかった。意識は
覚めているものの、思考はなかなか動き出そうとしてくれない。
 かろうじて動く右手でのろのろとこめかみを探ると、指先の冷たさが心地よかった。も
どかしくそのまま掌を押し当て、靄のようにおぼろな記憶を呼び覚まそうとする。
「……ほら」
友人の声と共に、固く絞ったタオルが渡されるのを半ば手探りで受け取った。パイル地の
感触に縋るようになおも額を冷やしていると、危ぶむように友人の声が問いかけてくる。
「本当に、大丈夫か?」
「大丈夫だ」
何も考えずに答えながら、ひいやりとした感触が少しずつ滲みわたってくるのを待つ。
(―――そうか)
 あの海岸での戦いの中、自分は足を踏み外し―――崖下の激流に呑み込まれたのだ。
 逆にその凄まじい渦に巻き込まれた為に、湾の外まで流されなかったのは幸運とも言え
るだろう。一昼夜を漂いながら、自分が流れ着いたのは前日に探りを入れていた敵アジト
から数キロと離れてはいない岸壁だったのだ。
 元々あの海岸を訪れたのは、今回の事件の鍵になるかもしれない薬品のサンプルを手に
入れる為だ。決着をつけていない戦いよりもそちらが先だ、と考えられるだけの分別は残っ
ていた。
 しかし流石にいつものようには行かなかったらしい。目的の場所を突き止める前に侵入
に気づかれ、迷路のように入り組んだアジトの中を戦闘員と戦いながら探しまわり、その
前日偶然から在り処を知ったプラントに辿り着くまでに随分手間取った。
 そして自分が謎の薬品のタンクを奪い取ったのとほぼ時を同じくして、敵のアジトでは
仕掛けられた自爆回路が動き出していたのだ。脱出路の選択を一度誤れば、そのまま地下
に生き埋めにされかねない。次々と行く手で起こる爆発のさなかを走り抜け、やっとの事
で海へ続く出口へ抜けた、と思った瞬間にも、すぐ背後で爆発が起こって足元がすくわれ
た。弾みで転びかかるのをどうにか踏み止まって走り抜け、間一髪のところで最後の爆風
を岩壁に逃れたのだった。
 ようやくそこまでは思い出せている。
 額にのせたタオルの下からちらりと眺めると、結城がじっとこちらを見ていた。
「……俺は」
低く呟くと、そのまなざしがかすかに動いたようだった。
「あれを、渡したな……?」
何を言われているのか、一瞬解らなかったらしい。表情を良く映す瞳に僅かに浮かんだ戸
惑うような色は、しかしすぐに消えた。
「ああ」
ちらりと振り返った先には、居間に続くドアがある。開け放たれたドアの向こうに、テー
ブルの上に置かれた歪な球形の容器が見えた。推測のレベルではあるが、おそらくその中
には自分達が入手したかった薬品が最終生成段階の形で満たされている筈だ。結城がその
薬品を分析すれば、敵がこの先同じ薬品を使った作戦をたてても対抗手段を講じる事もで
きるし―――まず今回の事件の被害者達に植えつけられた意識を解除する事もできるだろう。
「まだ詳しく調べてはいないんだが。おそらくあと一、二段階精製すれば、純粋なイノセ
ントドロップになると思う」
そうか、と風見は呟いている。
 敵のアジトは、明らかに計算された自爆と共に撤収していた。どのみち指揮をとってい
た幹部級の人間も逃げおおせているのだろうが、その持ち駒の正体が掴めれば、それだけ
次の戦いで自分達も有利になる。
 なかなかいつも通りに流れない思考に眉を寄せながら、結城の横顔を見やった。
(それに)
もしかするとこの友人も、まだ自分の知らない事実を抱えているかもしれないのだ。
 初めて―――その頃はまだ敵として―――出会った時から分りやすかったせいかもしれ
ない。そして気心が知れた今となっては、ともすれば結城の何もかも見通せているように
錯覚する事もあるのだった。だがそんな訳はないのだとも改めて思いながら、リビングへ
出て行く結城の背中を片目だけで見やった。
 テーブルには風見がアジトから持ち出してきた容器が置かれている。そのすぐ横に、数
本の試験管を冷やしているビーカーが並んでいた。自分の手当てと併行して、早速例の薬
品の抽出にも取りかかったのだろう。
 黒手袋を嵌めた手がその一本を取り上げ、軽く揺すって天井の灯にかざす。つと手を止
め、沈澱を待つように試験管の中身に目を凝らしているその横顔には、科学者としての冷
静な表情が浮かんでいた。
 ここ数年も一緒に居る時間の方が短く、ましてや戦っていない時には何をしているか、
別にいちいち知ろうとも思ってはいない。
 帰国すれば、今も実家に届けられている雑誌に友人の名前を見かける事もあった。正直
本物の天才が周りにごろごろしている今となっては科学者の卵を標榜するのもいささかた
めらわれるものの、一度は志した世界でもある。何を研究しているのか一応目は通す事に
はしていたが、元気でいると解っているならそれ以上に首を突っ込むつもりもなかった。
 そもそも自分のレースの時には頃合を見計らって連絡を取れば、律儀な友人は地球の反
対側からでもやってくるのだ。
 そう解っていながら―――今となってはどこかで奇妙に得心していない自分にも、風見
は気づいている。
(馬鹿馬鹿しい)
どうもいつになく苛々しているようだった。もう少し眠ろう、とタオルを額にのせたまま
目を閉じた。瞼は重く、息をつくと身体の節々がまだ疲労に強ばっているのが解る。どう
やら自分が思っていた以上に、海流に巻き込まれたダメージは大きかったらしい。
 しかし眠ろうとしても、なかなか忘我の眠りは訪れてはくれなかった。きつく瞼に力を
込め、身体を丸めて眠ろうとしても逆に意識がささくれだつばかりだ。
「―――風見」
リビングからかけられた声が、薄闇に溶けた。
 何だ、と片耳だけそばだてみたが、なかなかその先は聞こえてこなかった。結城にして
は珍しく言葉を探しているらしく、何度か何か言いかけては言い淀む気配が伝わってくる。
言いたい事があるならさっさと言え、と思っていると、ようやく思い切ったように口をきった。
「……何があった」
おそらく自分が目覚めてから一番先に聞きたい事はそれだったのだろう、と風見は思う。
一晩戻らなかったその理由の、察しがつかない程の馬鹿でもないとは承知していた。
「何も」
しかし目を閉じたまま、そう答えている。
「大した事じゃない」
同時に、そう自分にも言い聞かせていた。
 自分はあの薬品を手に入れようとして、ただ戦っただけだ。それが多少手強い相手だっ
たというだけで―――互角の戦闘力と経験をもち、マフラーや手袋の色を除けば変身後
まで瓜二つの外見をもつだけで。あれは自分とは別の存在だ。
 そう思いながらも、しかしまた奇妙に胸の奥が疼いた。
(小細工しているのはそっちの方じゃないのか)
自分の心を見透かされたような言葉が、ふとよぎる。
 いや、と思い返した。
 見透かしていたのではなく―――あの男には解っていたのだ。
 自分の居ないところで、結城とあの男との間にどんな会話が交わされたのかは知る由も
ない。だがあの男に解っていたように、風見にも大体の察しはついている。
 かつて自分も、同じ事を考えていたのだから。
 何故こいつには解らないのかと。
 お前が立つべきは自分の横の筈なのに、傍から見れば明らかに不自然な理屈をつけてま
で、何故かたくなに立ち向かおうとするのか。
 夢とも記憶ともつかない光景の残滓が、まだ瞼の裏に残っているような気がした。
 今ここに立っている友人がどれだけの覚悟で自分と同じ道を選んだのかは、自分が一番
良く知っている。今更善と悪の狭間で揺らぐ事はない。そう解ってもいる。
 だが生真面目な結城が、自分と同じ顔をした男にその理想を語られれば、少なくともそ
の言葉の意味を考えようとしてみる位の事はするだろうとも、忌々しくも風見には解って
いるのだった。
「大した事じゃないはないだろう。……おい、風見」
すげない答えを聞き咎めて結城が振り返ったのが、背を向けていても解った。
(……気にいらんな)
眉を寄せた。
「風見?」
聞こえないふりをした。
 何が聞きたいのかは知らないが、一から十まで説明してやらなくてもいいだろう。大体
それを知ったからといって何が変わるものか、と枕に頬を埋める。
「眠ってるのか?」
そう思いながら、戸口から気配が近づいてくるのを待つともなしに待っている。別に眠っ
ても良かったのだが、背中に感じる結城の意識に押されるように瞼は薄く開いていた。
 小さく結城が溜息をつくのが聞こえた。
 わざとしたように手荒に額からタオルが取られると、弱い天井の光が再びぼんやりと目
を射た。どうやら傍に洗面器があるらしく、小さく水の撓む音がした。濯がれたタオルが、
再びしっとりとした冷たさを帯びて額に置かれると、知らず目が閉じる。これで少しは眠
れそうだった。
 まだ実験の途中なんだろう、と向けた背で暗に伝えたつもりだったが、結城はじっと立っ
ていた。また何か言葉を探しているようだった。
「……僕は」
何を言おうとしている、と思った。
 二年前の夏の日、それとなく尋ねても言葉を濁して答えなかった、あの工場地下の培養
槽に居たものの事か。だがそれなら、もう聞くまでもないのだ。
「別に、今聞かなくてもいい」
だから無造作に遮ると、息をついて寝返りをうった。
 まだどこか心配そうに見下ろしてくる、誠実な黒い瞳を仰ぐ。
 どうしてだろうな、と思った。
(俺は疑わないし、お前ももう迷わないだろうに)
それともあんな危うげな夢を見たのも、自分ではないのだろうか。
 ふとそんな事を考える自分も、きっと疲れているのに違いなかった。額のタオルを指先
で瞼の上まで押し下げると、やがて冷たさが静かに眼まで滲みてくる。ゆっくりとまばた
きすると、そこには弱い光に照らされる天井と、自分を覗き込んでいる結城の顔がある。
 その真剣な面持ちに、知らず微笑がこぼれた。
「―――それより、お前も少し休め」
随分疲れた顔をしてるぞ、と斜に見上げた。
「あの厄介な薬も、せっかく手に入れてきたんだ。後はお前に任せるから、どうにかしろ」
あえて粗雑な物言いに、しかし結城も笑ったのがちらりと見えた。
 それでいい、と思いながら目を閉じた。

 実際のところ自分にも、結城には伏せている事など幾らでもあるのだった。
 例えばこうして眠りとも現ともつかない意識のはざまに触れてくる、どこか別の場所の
感覚であるとか。
 機械油の癖のある匂いや潜水艦のものらしき遠いエンジン音が、濡れて身体に重く貼り
つく服の感触と同じように、自分自身が感じているものではない事も解っていた。思うよ
うにならない身体の重さはともかくとしても、じっとしていてもそこかしこに走る鈍い切
り傷の痛みもこの身体のものではない。だからといってそれが誰のものなのかとか、何故
自分が感知できるのかは考えたくもなかったが。
(―――まあいい)
つけられなかった決着は、いずれこの手でつけるだけだ。
 密かにそう誓いながら、風見はゆっくりと息をつく。
 それからしばらくは眠るともなくまどろんでいたようだった。
 いつしか閉じた瞼を透かして、ぼんやりと白い光が射しているのに気づいた。
 部屋を満たす薄闇をはらって明るく四角く切り取られたその光景が、続きになっている
リビングの景色なのだと理解するのには、それでも少し時間がかかった。
(……やれやれ)
自分を起こさないつもりならドアくらいは閉めておけ、と思いながら、そんな友人の気の
利かなさがいつになく不快にならなかった。
 開けたカーテンをまだ手にしたまま、結城は窓の外を眺めている。
 昨晩は結局ほとんど眠らなかったらしい。横顔には幾らか疲れが滲んでいたが、その瞳
には研究に没頭している時と同じ強い光がある。
 整った鼻筋から、何を考えているのかきつく引き結ばれた口元へかけての線は、初めて
出会った時から少しも変わらない。なのに見慣れている筈のその輪郭線が、暁光に縁取ら
れて変に眩しかった。
 その光景を、風見はぼんやりと眺めている。
 そう言えばこの眺めをあの男は見ていない事になるのだな、とふと思った。コピーされ
た自分の記憶は半年前までのものだ。そこから先と、そしてこれから自分が知る事になる
全ては、自分だけの記憶になる。
 そう思いながら、まだ身体の隅にある違和感を静かに押し殺した。
 きっと自分よりも、気にかけているのは友人の方だ。
 そう思うと、またかすかに胸は痛んだ。だがあえてそれ以上は考えない事にして、風見
はまたゆっくりと目を閉じた。
 柔らかな夜明けの光が、ほのかに瞼に透けた。


                                <完>


   








先日ふと「あ、そうだ。確か『いつかの、夏の記憶』の前に何かコピー本を出してたな」と思い出して探してきたのですが、後日談ではなく補完系でした(笑)
ちょっと長い話を(大体入稿ぎりぎりまで引っ張って)書き終わってからしばらくすると「こんなエピソードも入れたかったな〜」と思いついた部分をちまちま書き出すのですが、
更にしばらくして再度読み返してみると「や、でも別にこのくだりってあってもなくてもどっちでも良くないか……むしろない方が良いような気も。いやー。本に入れなくて
良かった良かった」と自己完結するのです。
しかしその一方で「蛇足だな。うむ。……でも書きたかったし、別添えにしちゃえ〜」と未練がましくコピー本にしている辺り、自分ながら業の深い事でございます。

という訳でこの一連の話の完結編「いつかの、夏の記憶」はこのあとすぐ!(笑)



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